ヨーロッパ北東部、バルト三国のひとつ リトアニア。中世の面影を残す街並みと、信仰や記憶を大切に受け継ぐ人々の暮らしが息づく国です。静かな美しさの中に、長い歴史が折り重なるこの国には、訪れる人の心に深く残る場所がいくつもあります。
首都ヴィリニュス旧市街は、ゴシックやルネサンス、バロック、ネオクラシックなど多彩な建築様式が並び、1994年にはユネスコ世界遺産にも登録されました。石畳の路地を歩けば、カフェの香りと教会の鐘の音が街を包み込み、時代を超えた空気が漂います。歴史的建築と市民の生活が自然に共存しており、歩くほどに“過去と現在が重なる瞬間”に出会える場所です。
ヴィリニュスから車で30分ほど、ガルヴェ湖に囲まれた半島にそびえるのが トラカイ城。14世紀に築かれたこの赤レンガの城は、中世リトアニアの政治・防衛・文化の中心地でした。湖面に映る姿は絵画のように美しく、季節ごとに違った表情を見せてくれます。
リトアニアと日本のつながりを語る上で欠かせないのが、外交官 杉原千畝(すぎはら ちうね) の存在です。第二次世界大戦中、彼はリトアニア領事館でナチスの迫害から逃れるユダヤ人に日本通過ビザを発給し、多くの命を救いました。現在、カウナスには 杉原千畝記念館 が建てられ、当時の資料や証言が展示されています。個人の勇気と信念が、歴史を動かす大きな力となったことを静かに伝える場所です。日本から訪れる人々も多く、過去と未来をつなぐ「希望の記憶」として大切にされています。
北部の都市 シャウレイ(Šiauliai) にある 十字架の丘 は、リトアニアを象徴する特別な場所です。丘の上には無数の十字架や宗教的モニュメントが立ち並び、訪れる人々が祈りを込めて新たな十字架を立てていきます。この場所が特別なのは、ソ連時代の抑圧下でも人々が信仰と文化を守り続けた象徴であること。静寂の中に、祈りと希望、そしてこの国の強い精神が刻まれています。宗教施設という枠を超え、リトアニアの歴史そのものを物語る場所です。
これらの地を巡る旅は、リトアニアという国の“静かな語り”に耳を澄ます時間でもあります。華やかさよりも、深く静かに残るもの。石畳を歩き、湖を眺め、祈りの丘に立ったとき、この国の歴史と人々の思いが、確かに心に触れてくるはずです。









